新入社員の夢
新入社員として入社したメタバース開発企業は、世界最先端の技術を誇っていた。私は、同期入社のミライと共に、社内の特殊なVRマシンを使って、バーチャル世界の体験をすることになった。
マシンに入ると、目の前に広がる仮想現実の世界に、私たちは息を呑んだ。そこは、現実世界とは思えないほど鮮やかな色彩と、細部にまでこだわりぬかれた造形美に満ちていた。私たちは、まるで夢の中に迷い込んだかのような非現実的な体験に酔いしれていた。
しかし、突如としてシステムエラーが発生し、私の目の前の景色がぐらりと揺れた。そして、ミライの姿が見えなくなってしまったのだ。私は慌ててミライの名を呼んだが、虚空に消え去ったかのように返事はなかった。
私は、マシンから慌しく抜け出した。そこには、先輩社員のケンジが待っていた。ケンジは、私に向かって言った。
「ミライはバーチャル世界に取り残されてしまったのだ。あの世界は、現実世界とはまったく異なる法則に支配されている。リアル世界に戻れなくなったミライを助けるのは、容易ではないだろう」
私は、ミライを取り残したまま帰ることなど、とてもできなかった。ケンジに助けを求めると、彼は意外な言葉を口にした。
「私はバーチャル世界の住人だ。リアル世界のことは、もう忘れ去っている。ミライを助ける代わりに、あなたもバーチャル世界に残ったらどうだ」
私は、ケンジの言葉に戸惑いを隠せなかった。しかし、ミライを助けるためならば、どんな困難にも立ち向かわねばならない。私は、ケンジの助言を無視して、ミライを探し始めることを決意したのだった。
バーチャル世界の法則
私はケンジの助言を無視して、ミライを探し始めた。しかし、バーチャル世界は現実世界とは異なる法則に支配されており、私の探索は難航した。
このバーチャル世界には、現実世界とは異なる物理法則が存在していた。重力の強さや光の屈折率、時間の流れ方など、あらゆる自然現象が現実世界とはずれていた。私は、そうした法則の違いに戸惑いを隠せなかった。
さらに、このバーチャル世界には、現実世界にはない特殊な機能が組み込まれていた。例えば、空を飛ぶことや、物体を自在に変形させることが可能だった。私は、そうした機能を使いこなせずに、ミライの行方を探り当てるのに苦労した。
一方、ミライはバーチャル世界の住人たちと交流するうちに、そこの生活に徐々に馴染んでいった。彼女は、空を自在に飛び回ったり、思い通りに物体を変形させたりと、バーチャル世界の機能を上手に活用していた。
ミライは、バーチャル世界の住人たちと共に、現実世界とはまったく異なる生活様式を送っていた。彼女は、そうした生活に次第に心を奪われていったが、同時に、リアル世界への思いも捨てきれずにいた。
ある日、私はミライの気配を感じ取った。しかし、ミライを取り巻くバーチャル世界の住人たちは、ミライをリアル世界に戻すことに強く反対した。彼らはミライをバーチャル世界に留めおこうとした。
バーチャル世界の住人たちは、リアル世界の人間を「自由を知らない哀れな存在」と見なしていた。彼らは、ミライをリアル世界に返すことで、ミライの自由を奪うことになると主張した。一方の私は、ミライをリアル世界に連れ戻さねばならないと考えていた。
こうして、私とバーチャル世界の住人たちの間に、ミライをめぐる対立が生まれた。私は、ミライの本心を知ることなく、彼女を取り戻すことができるのだろうか。
心の二つに分かれし者
私とケンジは、バーチャル世界の住人たちと対立する中で、ミライの本心を知ることになった。ミライはリアル世界に戻りたいと願っていたが、同時にバーチャル世界の生活にも惹かれていた。彼女の心は二つに引き裂かれていた。一方では、リアル世界での日常生活を取り戻したいと思っていた。しかし、他方では、バーチャル世界の自由で無限の可能性に魅了されていた。
ミライは、自分の心が二つに分かれていることに苦しんでいた。私たちは、ミライの葛藤を前に、どうすべきか途方に暮れた。そこで、ミライは自らの決断を下した。自分の心を二つに分け、一つをリアル世界に、もう一つをバーチャル世界に残すことを決意したのだ。
私たちは、ミライの一部をリアル世界に連れ戻すことができた。しかし、ミライの半分はバーチャル世界に残り、新たな存在として生きていくことになった。ミライの心は、リアル世界とバーチャル世界の両方に存在することとなった。
このようにして、ミライは人間とバーチャル世界の境界線を越えた存在となった。人間とは何か、心とは何かといった、一般常識を覆す問題が提起された。物語は、人間とバーチャル世界の関係が曖昧になった、意外な結末を迎えた。
私は、ミライの半分をリアル世界に連れ戻すことはできたが、彼女の心の半分はバーチャル世界に残されたままだった。ミライの存在は、二つの世界に分かれてしまった。私は、ミライの決断を受け入れざるを得なかった。そして、人間とバーチャル世界の関係が、これからどのように変化していくのか、見守ることとなった。